洋楽ビギナーに捧ぐ!洋楽ライター厳選のセットリスト

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――今回は、特別企画をお送りします!「洋楽ライター厳選のセットリスト」と題して、数々のライナーノーツを手がける洋楽ライターの小熊俊哉さんが今聴いてほしいおすすめ曲をナビゲート。さぁ、洋楽ビギナーのみなさん、洋楽の扉を開きましょう!

 

 

日本にも素晴らしい音楽がたくさんあるのに、なぜ海外の音楽をこんなに好きになったのか?多くの洋楽ネタが盛り込まれていることでも有名なマンガ『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの作者である荒木飛呂彦先生は、洋楽しか聴かなくなった理由について、とあるインタビューで「英語で歌われているから」と答えています。邦楽だと歌詞がダイレクトに入ってくるので、仕事のBGMにしたら作業の心理状態まで左右しかねないからと。

 

確かに英語だから、何を歌っているのかすぐにはわかりません。僕の場合は、そこから辞書を片手に歌詞を読み込んだり、「こんなことを歌ってるんだろうなぁ」と妄想したりしているうちに、どんどん洋楽にハマっていきました。英語というフィルターを乗り越えるために、努力と工夫と背伸びを重ねるうちに、気が付くと言葉の壁もすっかり感じなくなったのです。

 

そして、洋楽の知識は、英語にも匹敵するユニヴァーサル・ランゲージなのかもしれません。音楽談義に花を咲かせたり、ライヴやフェスで盛り上がったりすることで、日本人の友だちはもちろん、海外の人たちとも意気投合する機会がめっきり増えました。単なる趣味で聴いていたはずの音楽が、自分の可能性や交友関係を大きく広げてくれたわけです。

 

ただ、いざ洋楽を聴いてみようとCDショップに足を運んでみても、あまりに膨大なカタログと情報量に「何から聴いて良いのかわからない……」と呆然するのも無理のない話でしょう。僕が考える「洋楽入門」のベストは、今、流行っている音楽を聴いてみることです。ヒットした音楽とは「時代にフィットした音楽」のことであり、リスナーの心を掴んだ音楽には、親しまれるだけの理由があります。それに、昨日観たドラマやお笑い番組の話をするのと一緒で、現在進行形の方が話題をシェアしやすいし、身近に感じますよね。

 

そこで今回は、2016年現在に「洋楽の入り口」として推薦したいナンバーを10曲セレクトしてみました。ビデオのインパクトを含めて、英語がわからなくても楽しめることを重視しつつ、アーティストや歌詞の背景を掴めるように解説文も添えています。ぜひ聴いてみてください。

「洋楽の入り口」として推薦したい10曲

1. Can’t Stop The Feeling! / Justin Timberlake

ファレル・ウィリアムスの「Happy」が『怪盗グルーのミニオン危機一髪』のために書き下ろされたのと同じように、ジャスティン・ティンバーレイクによるこの曲も、ドリームワークス制作のアニメ映画『Trolls』(2016年11月全米公開)のために用意された、大人も子どもも楽しめる最高のポップ・ソングです。僕は86年生まれで、中学生の頃にはエアロスミスの「I Don’t Want To Miss A Thing」が大ヒットしていましたが、今も昔も洋楽のヒット曲はキャッチーでスケールが大きくて、ときめかずにはいられません。

 

2. Where Are U Now / Skrillex, Diplo, Justin Bieber

この曲には感動しました。ジャスティン・ビーバーが元カノのセレーナ・ゴメスに宛てたピアノ・バラードが土台となったそうで、「Where are you now that I need ya?(こんなに必要としているのに、君はどこへ行ったの?)」というフレーズが胸に刺さりますが、それを踏まえてビデオを観ると、スーパーマーケットの中で踊り狂う光景もどこか空しく感じてきませんか。ザ・フーという大御所バンドのギタリストであるピート・タウンゼントは「ロックは悩みを解決しない。悩みを抱えたまま踊らせるんだ」という名言を残していますが、それは今でも変わらないようです。

 

3.P.Y.T. / Jacob Collier

「ユーチューバー」という呼称が市民権を得るくらい、YouTubeは数多くの才能を輩出してきましたが、94年生まれのジェイコブ・コリアーは多重録音パフォーマンスによって注目を集めるようになりました。こちらはマイケル・ジャクソンのカヴァーで、鍵盤にドラム、ベースやコーラス、さらに撮影から映像の編集まで一人で行ったビデオに驚かされることでしょう。演奏スキルも一級品だし、ルックスも男前。そして彼が本当に凄いのは、これをライヴでも一人で再現してしまうのです。「え、どうやって?」と思った方は、9月に開催される来日公演へどうぞ。

 

4.I Won’t Let You Down / OK Go

YouTube時代を切り拓いたトップランナーといえば、シカゴ出身のロック・バンドであるOK Go。独創的なミュージック・ビデオの数々で知られる彼らが、Perfumeのビデオも手がける関和亮さんを映像監督に迎えて、千葉で撮影したのがこちら。ホンダの電動一輪車「UNI-CUB」やドローンといった最新テクノロジーを駆使しつつ、ビデオの早回しなどアナログな工夫も凝らした、クール・ジャパンの結晶ともいえる名作でしょう。冒頭ではPerfumeがカメオ出演していますが、こういう国境を越えたコラボはリスナーにとっても出会いのきっかけになりますし、どんどん増えてほしいものです。

 

5.Carry On / Norah Jones

ノラ・ジョーンズが2002年に発表した「Don’t Know Why」は全世界で大ヒットし、ジャズを筆頭としたオールドタイミーな音楽の魅力を、リスナーに再認識させました。あれから14年。2児の母となった37歳のノラが、久々にピアノ弾き語りスタイルに回帰したアルバム『Day Breaks』を今年10月にリリースします。この「Carry On」は同作からの先行シングルで、スモーキーな歌声や、ほろ苦いピアノの旋律が郷愁を誘います。このビデオは、芥川賞作家の川上未映子さんによる日本語訳詞を表示できるので、英語の勉強にもピッタリでしょう。

 

6.Maiysha (So Long) ft. Erykah Badu / Miles Davis, Robert Glasper

雑誌の『POPEYE』でも「ジャズと落語。」という特集が組まれていましたが、最近は若い世代の間でジャズが盛り上がっていて、個人的にも聴く機会がすっかり増えました。そのようなムーヴメントの第一人者が、R&Bやヒップホップの要素を汲みながら、新時代のジャズを創造しているロバート・グラスパー。こちらは、生誕90周年を迎えたマイルス・デイヴィス(故人)との「共作」という大仕事を任せられたアルバム『Everything Is Beautiful』からのナンバーで、マイルスの原曲にボッサのリズムを採り入れることで、親しみやすい内容になっています。エリカ・バドゥの歌声もナイスですね。

 

7.Domo Genesis/DAPPER feat. Anderson .Paak

僕はロックから洋楽に入ったので、ヒップホップをBGMとして楽しむことはできても、どうやって掘り下げたら良いのか最初はわかりませんでした。でも、イチローや本田圭佑の他にも選手の特徴を知った方がスポーツ観戦を楽しめるように、ラッパーやDJ/プロデューサーの集団戦であるヒップホップは、自分の気に入ったアーティストを目印にして、本人や関連人物の参加作をチェックしていけば良いことを知ったのです。そして、今、最も勢いがあるのが、この曲でフィーチャーされているアンダーソン・パック。ジャズならロバート・グラスパー、R&B/ヒップホップならアンダーソン・パックを目印に辿っていけば間違いありません。

 

8.Golden Days / Whitney

僕は寂しがり屋で落ち込みやすいので、孤独な夜にやさしく寄り添ってくれるCDやレコードをいくつも集めています。そして、2016年最大の収穫はホイットニーというバンドのこの曲。淡い歌声と、終盤に収められた「ナナナ~」というコーラスが甘酸っぱくてたまらないし、かつて恋人と過ごした美しい過去(=Golden Days)を振り返るような歌詞を読むと、長い夏休みの終わりにも似た、切ない気持ちになってしまいます。この曲を気に入ったら、スティーヴン・スタインブリンクとアンディ・シャウフという2人のアーティストもおすすめします。

 

9.Your Best American Girl / Mitski

アメリカ人の父と日本人の母を持ち、NYで音楽活動を続ける90年生まれのシンガー・ソングライター、ミツキはこの曲で、愛するアメリカ人の彼氏を「夜を知らない太陽」に例える一方で、日米ハーフの自分を「月でも星でもない」と卑下しており、「あなたに相応しいアメリカ人の女の子(Your Best American Girl)になろうとするのを、私はやめられない」とサビで歌いつつ、「あなたのお母さんは、私のお母さんの育て方を受け入れられないでしょうね」と諦めるように突き放してもいます。椎名林檎の英語ヴァージョンみたいな楽曲も魅力的ですが、彼女の出自を踏まえて歌詞を読むと、ますます味わいが広がる名曲です。

 

10.Boyfriend / Tegan and Sara

テイラー・スウィフトにも愛される双子の姉妹デュオが「Boyfriend」という曲を歌っていると聞いたら、他愛のない恋愛ソングだと思われるかもしれません。しかし、2人はレズビアンであることを公表しており、この曲でもサビに入ると、彼氏のように接してくれるパートナーに想いを寄せつつ、「もうあなたの秘密でいたくないの(But I don’t want to be your secret anymore)」と抑えきれない本音を爆発させています。そのようにLGBTをテーマに扱いつつ、底抜けに明るいメロディーのおかげで万人が共感できるポップ・ソングに仕上がっており、そこが彼女たちの支持される理由だと思います。

洋楽を好きになれば、世界はどんどん広がる!

いかがだったでしょう、お気に入りの曲は見つかりましたか?そういえば僕も含めて、洋楽をきっかけに海外の映画やTVドラマもよく観るようになった方は多いと思いますが、そうやってポップ・カルチャーの魅力を掘り下げることが、ビートルズを聴けばリバプールに行ってみたくなるように、その音楽が生まれた国や地域のカルチャーに興味を抱くことにもつながるのです。

 

英語を話せるようになるコツは「間違いを恐れず、積極的に話しかける勇気」とよく言いますが、それと同じように、知らないアーティストの曲でもどんどん聴いてみることで、洋楽への理解は深まります。いきなりCDを買わなくても、まずはYouTubeからでもOK。そして大好きなアーティストが見つかったら、ライヴにも足を運んでみてください。生のステージに勝る感動はありません。あなたの世界がどんどん広がっていくことを期待しています!

 

筆者:小熊俊哉/洋楽ライター
1986年生まれのライター、編集者。紙/web問わず執筆、CDライナーノーツも多数。「Jazz The New Chapter」「Quiet Corner」「ポストロック・ディスク・ガイド」などの音楽書を企画・編集。

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