接遇マナー講師に聞く!外国人観光客向け接客の極意

     
最終更新日:2024.05.14記事作成日:2017.07.31ビジネス英語
海外からの観光客への接し方
Summary あらすじ

日本各地の観光地で数多くの外国の人たちを見かける今、日本中でインバウンドが盛り上がっています。そんな中、「外国人観光客にどう接していいかわからない」「外国人観光客が満足してくれる接客やマナーに自信がない」というのが私たち日本人の“本当のところ”ではないでしょうか。そこで今回、元国際線CAから転身、大手企業からマナー研修に引っ張りだこの接遇マナー講師である徳永美佳さんに、外国人観光客向けの接客術をテーマにお話をお聞きしました。

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Introduction

 

【Profile】
徳永美佳さん/FINEST株式会社 代表取締役社長
元ANA全日本空輸株式会社の客室乗務員。国内線から国際線勤務となり、早くからチーフパーサー、グループスーパーバイザー職を務める。客室本部にてスターアライアンス、政府チャーター、新機種導入時の客室乗務員編成担当など歴任。退職後、JAL系の研修会社ザ・アールにて研修講師を務め、大手証券会社、大学などの大規模研修を経験し講師として実績を積む。同時期にみずほ証券にて調査部長秘書として勤務、ビジネスマナーが最も厳しい金融業界で経験を培う。その後、独立し、ビジネスマナー研修会社を立ち上げ多くの大手企業の研修を受け持ち、幅広いニーズに対応した研修を数多く創り上げながら自らも登壇。英国王室のウイリアム王子ご夫妻に書を贈呈するなど、書道家としても活動中。

外国人観光客が求める接客は、まずはスピード、それからマナー

海外からの観光客への接し方

―― 外国人観光客向けの接客とは、どのようなものなのでしょうか?

 

弊社は日本企業に就労している外国人の方々に対し、日本文化やマナーの考え方などをお伝えし身につけていただく研修も多数行なっています。そこでアンケートを取っているのですが、その中から外国の人たちが日本でどのような接客を求めているのかが浮き彫りになりました。彼らが求めているのは、IT環境などのハード面を整えること、そして要望に的確に応える応対です。手厚いマナーは私たちが期待しているほど求められていません。

 

―― 日本は“おもてなしの国”として認知されているように思っていたので、マナーがそれほど求められていないのは意外です。

 

もちろん、外国の人たちも、日本人のハートフルさや我慢強さ、温かさ、手厚い接遇などを素晴らしいと評価しています。ですが、いつでもそれらを求めている訳ではないのです。「必要なときに必要なサービスが欲しい」というのが本音。

 

例えば、デパートなどで店員さんが丁寧にゆっくりと対応してくれるとき。日本人にとっては、高級感や特別感があり好印象を受けるでしょう。しかし、外国の人にとって場合によっては「買い物が目的なのだから、早く会計を済ませて品物を渡してほしい」と感じてしまうようなのです。

 

それから洋服を買うときなど、店員さんからの声掛けについても気になるそうです。誰にでも通用する一般的なスタンダードなものより、その人だけに向けたパーソナルなアドバイス、つまり「for you」のあるアドバイスが欲しいと言います。

 

―― 一人ひとりに向き合った対応が好まれるのですね。

 

ええ、そうなんです。日本人は、相手とほどよい距離を保ち節度をわきまえることが、相手を敬う文化として根付いていますので、丁寧で当たり障りのない対応に慣れています。でも、外国の人からすると、それは自分の意見がないように見えてしまいます。また、外国は日本と比べて「個=アイデンティティ」を大切にします。だから「for you」が欠かせないんですね。

 

―― 「IT環境などのハード面」とは、具体的にどういうことですか?

 

世界では当たり前に整備されているWi-Fi環境がまだまだ不十分であったり、自国でメジャーなクレジットカードが日本では決済できなかったり、などですね。中国で誰もが使っているようなカードが日本では使えず、中国の知人は「ハードの対応が遅すぎる」と嘆いています。これこそが「要望に的確に応える応対が日本はできていないよね」と捉えられる要因です。

“おもてなしの心”の「見える化」が外国の人たちの心に響く

海外からの観光客への接し方

―― 日本の接遇マナーについて、外国の人たちからの評価ポイントはどんなところにあるのでしょうか?

 

よく聞かれるのが、おしぼり、美容室のマッサージ、雨の日に使う傘袋サービスなどです。「どこに感銘したのか?」と尋ねてみると「すべてフリー(無料)なのがすごい!」と。最初は「フリーだから良いの?」と驚きましたが、よくよく考えると、日本のように“察する文化”ではないため、“おもてなしの心”を形にして見せてあげると、彼らもその心を受け取れるようなんですね。ですから、言葉だけでなく、何か形にすることが重要じゃないでしょうか。

 

余談ですが、飲食店のテーブルに備え付けられている店員さんを呼ぶボタン。知人の外国の人は称賛するんですよ。「5秒以内で店員が来る!」って(笑)。意外でしたが、「必要なとき店員を呼んで要望を叶える」という目的を果たしている点で喜ばれているようです。

 

―― そうすると、外国人観光客向けの接客のポイントは、ご要望に適切に応える適切なスピード感、相手に向き合う対応、心を形にする、ということでしょうか?

 

そうですね、加えてユーモアの心は必要かもしれませんね。日本のように過度に丁寧すぎる言葉は適していないと思います。なぜかというと、英語には相手を立てる言葉が日本に比べて少ししかなく、その代わりジョークを入れてウィットに富んだ表現で相手の心を和らげ、距離を縮めてくれます。ですから、ジョークを取り入れた英会話はおすすめです。

 

―― 丁寧さゆえの落とし穴、みたいですね。他には見落としがちなことはありますか?

 

マナーやルールは早めに伝えるようにしましょう。例えば、温泉やスパ、それからトイレの使い方など、使用前に注意喚起できるように表示しておくと、それは「アテンション」になり、彼らも納得します。

 

ところが、後から「それはNGなんです」と言うと「おしつけ」と思われてしまうかもしれません。今ではアテンションやマナー、ルールを最初に表示しているお店や施設が増えていますが、まだまだ工夫できます。せっかく観光に来てくれているのですから、楽しい思い出をつくってほしいですものね。

英語で日本や地域の自慢話を。新しい交流が生まれ、コミュニケーションが深まる

海外からの観光客への接し方

―― 外国人観光客に日本をリピートしてもらうための極意を教えてください。

 

私たち一人ひとりが、日本の国のこと、自分たちの地域のことに関心を持ち、英語で語れるようになることでしょうか。

 

外国の人たちと話していると、自国や自分たちの地域の自慢話をよく耳にします。人口は何万人で、産業はこんなものがあり、国民性はこんなに素晴らしくてなど。心の底から誇らしげに話してくれます。

 

そして一通り話し終えると、「MIKAの国はどんな国なの?東京の代表的な産業は?」と話をこちらに向けられます。お恥ずかしい話ですが、過去に言葉に詰まってしまい「東京の産業ってなんだろう?」と考え込んだことがありました。

 

私たちは、日本のことをそんなに知らないと思うのです。外国の人たちが日本に観光に来るということは、日本に興味を抱いているということ。ですから、私たち日本人から日本や東京、地域の話を聞くことができれば、彼らの日本に対する印象がより良くなることでしょう。

 

―― 観光案内的なことが英語で話せると良いですね。

 

はい、まず第一歩として、観光案内的な内容を英語で話せると良いですね。それって、一度覚えてしまうと、しばらくそのフレーズを使いまわせますし(笑)。これは日本や東京、地域について語るときも同じです。

 

私たちは地理や歴史などを学校で学んだはずなのに、残念なことに忘れてしまっている人が多い。でも、国際交流という点において、日本人としてのアイデンティティを持つということはコミュニケーションのために必要な知識なんです。母国のことを英語で語ることで、外国人観光客と深いコミュニケーションができるようになるでしょう。

 

ぜひ、英語で日本や地域の自慢話をしてください。そして外国の人たちの“お国自慢”も聞いて、互いの文化の相互理解につなげてほしいですね。英語でコミュニケーションできると、新しい交流が生まれ、とても楽しくなりますよ。

インタビューを終えて

海外からの観光客への接し方

「日本のおもてなしは誰もが喜ぶ」と思い込んでいましたが、外国の人たちの感覚や考え方の違いについてエピソードを交え教えていただき、目から鱗が落ちる気持ちでした。その場に適したスピードで接客することを求められている一方、日本人特有の奥ゆかしい配慮にも好感を抱いてくれている。異文化を知ることは、本当に楽しく豊かなことです。

 

そして、外国の人たちが日本人のことや日本についてもっと知りたいと思ってくれているからこそ、自分たちのことを伝え、相手のことを知るための“英語の重要性”を改めて実感できました。

 

徳永さん、ありがとうございました!

 

Interviewer & Writer:佐藤美の/取材執筆・コピーライター
ビジネス系メディアの取材・記事執筆、幼児教育分野のWEB・パンフレットなどのコピーライティング、企業コピーライティング、などを手がける。そのすべての基礎は「取材」。自然に会話できる環境づくり、本音を引きだす雰囲気づくりを心がけ、年間100人以上の人たちの内側の声を聴き続け、相手の世界観を表現する言葉を紡いでいる。

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