言語教育の現場で実感。言葉の壁を乗り越えるために大切なこと

2016.10.27旅行・留学

――今回は、特別企画をお送りします!オーストラリア・シドニーの大学の博士課程に在籍し、言語教育に関する研究を行う小島卓也さんに「言葉の壁を乗り越えるために大切なこと」について語っていただきました。その秘訣とは……

 

 

日本以外の他の国の人たちと交流するとき、そこには必ず「言葉の壁」が立ちはだかります。 この言葉の壁は、ただ単に相手の国の言葉(英語など)を勉強し、知識を身につければ乗り越えられるわけではありません。 そこには、それだけではない“大切なこと”があるのです。

 

今回は、私がオーストラリア・シドニーの言語教育の現場で気づいた「言葉の壁を乗り越えるために大切なこと」をお話しします。

言葉の壁を乗り越えるには、交流の場に積極的に参加する!

早速ですが、結論から話を始めましょう。言葉の壁を乗り超えるために大切なこと。それは「交流の場に積極的に参加すること」です。

 

私は、シドニーの大学で言語教育分野の研究を進めながら、語学学校で日本語を教えています。研究を進めるにも授業を行うにも英語が必要であるため、英語の勉強を続けています。しかし、参考書などを開いて「英語を勉強するぞ!」という場面はほとんどありません。さまざまな交流の場に参加して人と交流を深める中で英語を学んでいます。

 

では、なぜ言葉の壁を超えるために「交流の場に参加すること」が大切なのでしょうか。そこには、人とつながる機会があるからです。言語学習というと「教科書や参考書との孤独な戦い」とイメージされるかもしれません。しかし最近では、言葉は人と人との交流の間でこそ学習できるもので、言葉を学ぶために人と人のつながりを作り出そうという考え方があるのです。人とのつながりを作る過程で起きる言語学習は、言葉を使う相手や文脈が存在するため、とても実践的。「言語を勉強したはずなのに使えない」という状況を打破するアプローチとしても注目を浴びています。

 

私は大学内のワークショップや、自分が担当する日本語の授業だけではなく、大学のクラブ活動や週末のスポーツチームの集まりに参加することで英語の使い方を学んでいます。多種多様の交流の場に参加することで、いつもとは違った話題や聞き慣れない言い回しに触れる機会を得ることができるため、刺激的で大変勉強になります。日本でも、語学学校や英会話サークルに参加している人であれば、同じような実感を抱いているのではないでしょうか。

英語を学ぶことに固執せず、楽しく誰かと何かをすることに焦点を当てる

ただ、交流の場に参加したからといって、人とのつながりを作るのは容易ではありません。もうひとつ、言葉の壁を乗り越えるのに欠かせないポイントは「“自分が興味を持つ”交流の場に参加すること」。

 

なぜなら、人は誰でも自分自身が好きなことの方が話しやすいからです。好きなことに関しては、私たちは身振り手振りを駆使し、持っている知識を総動員して伝えようとします。“自分が興味を持つ”交流の場に参加すれば、話題の種は無数。熱い気持ちを分かち合ったときの喜びはひとしおです。 ときには、話の内容が自分の言語能力を超えていくこともありますが、そのようなときこそ、気づかぬうちに自分の力をもう一段階引き上げるチャンスといえます。

 

ここで注意したいのは「“言語の勉強がしたい人たちの交流の場”への参加」です。 漠然と「一緒に英語の勉強をしましょう」「英語で話をしましょう」と言われても、何をすれば良いのかわかりません。私自身、そのような日本語学習者の集いを企画し、大失敗した苦い経験があります。「さあ、日本語での会話を楽しんでください」と言って、自己紹介を一通り終えた後の重い沈黙は二度と忘れないでしょう。話の種がなければ話の花は咲きません。

 

これらの経験から、言語の学びは“副産物的なもの”として捉えた方が上手くいくのかもしれないと感じました。例えば「今日はみんなで一緒に料理を作ります。料理を作る間は英語を使いましょう」となると、みんなで料理をする過程で料理の仕方、道具、食材、調味料の名前などを英語でどう言うのか学び合います。また、ビジネス英語を学びたい人が集まって英語のメールを一緒に書くのも良いでしょう。スポーツをするとき、できるだけ英語を使ってみるのもおもしろいと思います。英語を学ぶことに固執するのではなく、楽しく誰かと何かをすることに焦点を当てるのです。

壁を超えた先で学ぶ言葉は、楽しい体験の副産物

人とつながりを作る中で言葉を学習しようと意識していると、思いがけず嬉しいことも起こります。例えば、私が担当する語学学校では、どこからともなく最後の授業後に食事会を開く話が持ち上がります。これは、私をはじめ、授業に参加した学習者たちが「つながりたい」という思いを持ったからに他なりません。授業が終わっても、食事会でさらに交流が深まり、次なるつながりへと続いていきます。そんなおかげで、今まで行かなかった場所に行けたり、今まで聞かなかった意見を耳にしたりと、人生を随分と豊かにする経験ができました。

 

私は、このような意識を持ち始めてから、シドニーに限らず日本でも旅先でも、自分とは異なる人と出会うような場面に積極的に参加するように変わりました。インターネットや本からだけでは得られない、五感を使った体験の中で、人とつながりを作り、そして、言葉も学べるようになったのです。

 

今回、「言葉の壁を乗り越えるために大切なこと」として、自分の興味がある交流の場に参加すること、人とのつながりを作る中で言葉を学んでいくことの意義について触れました。少し発想の逆転をしてみてはどうでしょうか。誰かと何かを楽しむことを最初に強く意識すれば、言葉の壁がぐっと低くなるのです。言葉の知識があるから壁を乗り越えられるのではありません。壁を超えた先で学ぶ言葉は、楽しい体験の副産物です。

 

日本も国際化の一途を辿っています。海外に行かなくとも、このような機会を見つけることは十分に可能ではないでしょうか。

 

筆者:小島卓也/日本語教師・大学院生
オーストラリアのシドニーにある大学院の博士課程に在籍し、言語教育に関する研究を行う。同時に、シドニー市内の語学学校で日本語教師として教育実践にも携わる。日本の大学在学中にイギリス、オーストラリアへの留学を経験し、卒業後、シドニーの大学院に進学し現在に至る。

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